気候・災害

インド電力部門のCO2排出、太陽光急拡大で2年横ばいに

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インドの電力部門から出るCO2排出量が、2024年1〜6月から2026年1〜6月までの2年間、実質的に増えていないことが分かった。太陽光発電を中心とするクリーンエネルギーの急拡大が、伸び続ける電力需要の増加分をほぼすべて吸収した形だ。ただし国全体で見ると、鉄鋼やセメント業界の排出増加により、2026年1〜6月の総排出量は前年同期比3.7%増えている。

何が起きたのか

気候・エネルギー分野の分析メディアCarbon Briefが公表した分析(執筆はCREA、Centre for Research on Energy and Clean Airの主任アナリスト、ラウリ・ミュリュヴィルタ氏とインド担当アナリストのアヌブハ・アガルワル氏)によると、インドの電力部門のCO2排出量は2024年の水準からほとんど動いていない。2025年1〜6月に2.2%減った後、2026年同期に2.3%増えて元の水準に戻り、差し引きではゼロに近い。

この2年間でインドの電力需要は7%、63テラワット時(TWh、電力量の単位)分増えた。これはスイス一国分の電力需要全体に相当する規模だが、増加分は太陽光・風力・原子力・水力といったクリーンエネルギーだけで賄われた。中でも太陽光発電の設備容量は2年間で77ギガワット(GW、発電設備の出力の単位)増え、太陽光の発電量の増加だけで需要増加分の60%をカバーした。

同じ2年間で石炭火力発電は増えず、これは50年以上ぶりのことだという。一方で発電事業者は8.5GWの石炭火力を新たに追加しており、稼働時間の減少と、それに伴う消費者向け電気料金の上昇を招く要因になっているという。

石油・ガスの消費は2年連続で減少し、それに伴うCO2排出は2026年1〜6月に前年同期比7%減った。道路輸送用燃料の需要は増えているにもかかわらず全体では減少している。分析は、クリーンエネルギーの拡大によって発電用の化石燃料の輸入が減り、「ホルムズ危機」の打撃を受けにくくなったとしている。

その一方で鉄鋼とセメントの排出量は前年同期比8%増え、2026年1〜6月にはインドの総CO2排出量の23%を占めるに至った。電力部門が横ばいでも、鉄鋼・セメントを含む産業部門の増加がインド全体の排出を押し上げている構図だ。

背景

インドは人口増加と経済成長に伴い電力需要が伸び続けており、これまでは需要が増えるたびに石炭火力の発電量も増えるのが常だった。今回、需要が増えながら石炭火力が横ばいにとどまったのは、太陽光発電のコストが下がり導入が加速したことに加え、風力・原子力・水力もそろって増加したためとみられる。分析はこの2年間の非化石電源の増加が過去最大規模になったとしている。

ただし電力部門の脱炭素化がそのまま経済全体の脱炭素化を意味するわけではない。鉄鋼やセメントは製造工程で高温の熱や、石炭を原料とするコークスを直接必要とするため、燃料を電力に置き換える「電化」が難しい産業とされる。分析は、インドの産業部門の電化率がG20で2番目に低く、産業のエネルギー消費に占める電力の割合は17%にとどまると指摘しており、これが鉄鋼・セメント分野の排出増加が続く一因になっているとみられる。

また、電力部門の変化が完全に順調というわけでもない。石炭火力の稼働率が下がっているにもかかわらず新規の石炭火力建設は続いており、石炭を原料にした化学品への転換や、製鉄用の国内石炭の増産計画も進められているという。今後もクリーンエネルギーの拡大ペースを維持するには、送電網の増強や蓄電設備への投資拡大、必要に応じて出力を上げ下げしやすい石炭火力の運用改善が課題になるとされる。

日本にとっての意味

インドは日本企業にとって発電設備やインフラの有力な投資先とされる市場であり、太陽光発電の急拡大で電力需要の伸びが吸収されている実態は、今後の対印エネルギー戦略を考える材料になる。特に、分析が課題として挙げる送電網の増強や蓄電設備の導入拡大は、日本の重電メーカーや電池関連企業にとって商機となる余地があるとみられる。

また、クリーンエネルギーの拡大で発電用の化石燃料の輸入が減り、ホルムズ危機の打撃を受けにくくなったというインドの経験は、同じ海峡を原油輸入の主要ルートとする日本にとっても他人事ではない。中東情勢の緊張が高まった際に、国内の非化石電源の拡大がどこまで供給不安の緩衝材になり得るかを考える上で参考になる事例と言える。

さらに、鉄鋼・セメントなど電化が難しい産業の排出が増え続けているというインドの構図は、同様に鉄鋼業を抱える日本にとっても共通する課題を映している。電力部門の脱炭素化が進んでも、産業部門の排出が下がらなければ国全体の排出削減にはつながらない。この構図がインドで今後どう変化していくかは、日本の脱炭素戦略を考える上でも注視する価値がある。