握るとデータセンターの稼働音が鳴るぬいぐるみ 米Basuraが風刺キャンペーン
握ると、データセンターの稼働音が鳴るぬいぐるみが作られた。音を録ったのは、米バージニア州でデータセンターのそばに暮らす女性だ。AI向けの施設が各地で急増するなか、その建設ラッシュを保護動物の里親募集になぞらえて風刺する企画の一部で、作られたのは20体だ。
何が起きたのか
ぬいぐるみの名は「Bezzy」。手作りで、柔らかい体がデータセンターをかたどっている。笑顔と目があり、手足が長い。体に付いた札には「耳をつんざく永遠のうなりのために、私を抱きしめて」とある。
作ったのは米ニューヨークのクリエイティブ会社Basuraと音楽家のBig Dataで、Big Dataの7年ぶりとなる新作「4.0」の発表に合わせた。
Bezzyは企画の一部にすぎない。「Adopt a Data Centre(データセンターの里親になろう)」と名づけられたこのキャンペーンには、ウェブサイト、ステッカー、ポスターもある。全体を貫く見立ては、「AIのデータセンターを、永遠の家を探している保護動物として」思い描くことだ。着想の元は、世界自然保護基金(WWF)のパンダの里親制度のような仕組みだという。
「Adopt A Data Centerは、私たちが暮らしの中に迎え入れるよう求められているものを、もっとよく見てほしいという、不条理で挑発的な招待状だ」と、Basuraの創業者ラジーブ・バス氏はDezeenに述べた。
背景
企画の出発点は聞き取りだった。制作陣は、データセンターの近くに住む人々「数十人」に話を聞いている。バス氏によれば、知りたかったのは、施設のそばで暮らすことが「実際にどう感じられるのか」だった。
浮かび上がった懸念は共通していた。騒音、光、土地の使われ方の変化とそれが住民に及ぼすこと、そして地元の水と電気への需要である。Bezzyから鳴る音も、この聞き取りに応じた一人が録音したものだ。
ただし制作陣は、この企画が「反AIでも反テクノロジーでもない」と断っている。狙いは、AIをどう責任を持って使うかについて問いを立てることだという。「日々の暮らしを変えることから人類の未来を形づくることまで、約束がこれほど巨大なのだから、安全と説明責任への取り組みも同じだけ大きくなければならない」とバス氏は述べた。
AIのモデルを支える巨大なデータセンターは、いま世界各地で建設が進む。広大な土地に加え、大量の電力と水を使う。Dezeenによれば、最近発表されたユタ州のAI向け大規模施設は、約4000ヘクタール(1万エーカー)もの土地を充てる計画だ。
摩擦はすでに表に出ている。米テネシー州メンフィス周辺では、実業家イーロン・マスク氏のデータセンターの騒音をめぐって周辺住民が提訴したとNPRが伝えた。音だけではない。データセンターの開発がはっきりとしたヒートアイランド現象をもたらしていることを指し示す予備的な研究も、科学者たちによって公表されている。
日本にとっての意味
バス氏が米国で聞き取った懸念は、日本でも同じ顔ぶれで出ている。違うのは、それがぬいぐるみではなく訴状の形を取っていることだ。
千葉県印西市では、千葉ニュータウン中央駅から北へ徒歩5分ほどの場所に計画された地上6階建てのデータセンターをめぐり、周辺住民10人が建築確認の取り消しを求めて提訴した。高さ52.7メートル、延べ床面積は約3万平方メートルになる計画だ。住民側は、この施設が実態として「工場もしくは倉庫にあたる施設」だと主張する。この地区では地区計画に基づく市の条例が工場と倉庫業を営む倉庫の建築を禁じており、だから建築確認は違法だという理屈である。懸念の中身は米国と変わらない。サーバーを冷やす空調設備からの排熱と騒音だ。
争点が用途の解釈になっているところに、日本の事情が出ている。データセンターという用途が制度の想定に無く、どの箱に入れるかで扱いが変わる。東京都も、こうした立地をめぐる混乱を受けてガイドラインの策定に着手した。
電力の側でも数字は動く。電力広域的運営推進機関の全国需要想定では、データセンターの新増設分として、2034年度には2024年度と比べて年間の需要電力量が約440億キロワットアワー、最大需要電力が約616万キロワット増えると見込まれている。新しく建つ分だけの増加である。
Bezzyが風刺するのは、巨大な施設を「里親を待つ保護動物」として受け入れさせる語り口だ。日本にその語り口は無い。代わりに、建築確認という手続きの中で同じ問いが争われている。施設を迎え入れる条件を、誰がどこで決めるのか。