米とベネズエラ、650億バレル超の石油権益で大型合意
米国は現地時間2026年8月下旬、ベネズエラの石油埋蔵量のうち650億バレル超にアクセスできる大型の石油契約を発表した。契約はノース・アメリカン・ブルー・エナジー・パートナーズ(North American Blue Energy Partners、NABEP)という民間会社を受け皿とする形をとり、ベネズエラ国内の石油インフラに最大1000億ドルが投資される見通しだ。人権団体や環境団体は、温室効果ガス排出の増加や原油流出、契約の不透明さへの懸念を表明している。
何が起きたのか
NABEPはベネズエラで第2位の石油生産会社で、17の油田について100年間の採掘権を得たと米政府は説明している。米国はこの会社の株式の35%を保有し、生産量の20%を購入できるほか、25年間の契約期間中、残り80%についても優先的に購入する権利を持つ。
ベネズエラ当局の発表によれば、NABEPの契約だけで日量150万バレルの生産が見込まれ、25年間で総額2090億ドル超、年間にして約84億ドルの歳入をもたらすとされる。デルシー・ロドリゲス大統領は記者会見で、米国との合意は中長期的にベネズエラ国民全員の生活に大きな影響を与えると述べ、繁栄した未来への展望を強調した。
一方、ベネズエラの人権団体プロベア(Provea)と環境NGOのクリマ21(Clima21)は現地時間9月9日の共同声明で「経済的な回復が、環境に関わる人権を犠牲にして実現されてはならない」と訴えた。両団体は、契約に含まれる環境保護の仕組みを直ちに公表するよう求めている。あわせて、先住民族が持つ「自由な、事前の、十分な情報に基づく同意(Free, Prior and Informed Consent)」という国際的な権利を尊重し、国連のビジネスと人権に関する指導原則とも整合させるべきだとしている。
背景
ベネズエラは推定3000億バレルという、世界でも有数の原油埋蔵量を持つ国だ。しかしこの10年間、老朽化した石油インフラや汚職、国際的な制裁によって生産能力は落ち込み、現在は日量およそ100万バレルにとどまっている。他の主要産油国に比べると、著しく低い水準だという。
今回の契約は、米国がベネズエラへの関与を強めていく流れの一環に位置づけられる。麻薬テロやコカイン密輸に関与したと非難されてきたニコラス・マドゥロ大統領を退陣させる軍事作戦が2026年1月に実施されており、2026年を通じて、米政府関係者は石油・天然ガスをはじめとする天然資源への投資を協議するため、たびたびベネズエラを訪れてきたという。
ベネズエラ産の原油は硫黄分や重質炭化水素の含有量が高く、精製にはより多くのエネルギーを要し、結果として排出される温室効果ガスも多くなるとされる。原油に伴って産出する天然ガスについても、余剰分を大気中で燃やす「フレアリング(flaring)」と呼ばれる処理が多用されている。国際エネルギー機関(IEA)によると、2025年に中南米で排出されたメタンの半分近くが、ベネズエラの石油・ガス施設に由来するという。
ベネズエラでは毎年数十件の原油流出事故が起きているとされ、政府が公表する件数は実際より少ないとの指摘もある。最も被害が大きい地域のひとつが、汽水と淡水の生態系を抱え、小規模漁業を営むコミュニティが暮らしてきたマラカイボ湖だ。ベネズエラの政治生態学観測所(Venezuelan Observatory of Political Ecology)のメンバーであるエミリアーノ・テラン・マントバーニ氏は、法の支配が揺らぐ状況下で「石油合意のもとでの環境ガバナンスがどうなるのか、そして流出や事故が何を意味するのか、米国企業の世界での実績の恐ろしさを踏まえると想像すらできない」と述べている。
世界保護区データベース(World Database of Protected Areas)と環境NGOプロビータ(ProVita)による石油鉱区の地図を突き合わせると、ベネズエラの石油鉱区のうち約7万785平方キロメートルが保護区と重なっているという。複数の市民団体は、17の油田の具体的な位置や、それが保護区や先住民族の土地に影響するかどうかを政府が明示していないと指摘している。NABEPと石油担当省はいずれも、取材への回答を寄せていない。
日本にとっての意味
日本は原油のほとんどを輸入に頼っているため、世界の需給構造に関わるニュースは日本にとっても無縁ではない。ただしベネズエラ産原油は硫黄分が多く重質であるため、日本の製油所が普段引き取っている中東産の軽質・中質原油とは性質が異なり、日本が直接輸入する原油になるとは考えにくい。影響があるとすれば、世界的な原油価格や中東産原油の需給バランスを通じた間接的な波及になるとみられる。
むしろ注目すべきは、環境・人権に配慮した投融資を重視する国際的な潮流との関わりだ。商社や金融機関が海外の資源プロジェクトに関与する際、温室効果ガス排出や人権リスクの開示を求める投資家の目は年々厳しくなっている。透明性を欠いたまま進む大型石油開発は、こうした基準に照らしてどう評価されるのかという論点を、日本の資源関連企業にも投げかける。
また、IEAが指摘するようにベネズエラの石油・ガス施設は中南米のメタン排出の主要な発生源とされる。メタンは二酸化炭素より短期的な温室効果が強いとされ、世界の気候変動対策の目標達成にも関わる問題だ。日本が国内でどれだけ削減を積み上げても、今回の契約で増える分の排出は日本の制度の外側で起きるため、産油国側の環境ガバナンスがどこまで働くかは日本の削減目標の前提そのものを左右する。