Rikers島に代わる拘置所4棟が全棟着工 NY市、街なかに建てる
ニューヨーク市が、Rikers島の収監者を移すための拘置所4棟を、クイーンズ、ブルックリン、マンハッタン、ブロンクスに新築する。マンハッタン分の着工によって、4棟すべてが工事に入った。市はRikers島の閉鎖に向けた手続きも並行して進めている。最も早いブルックリンが2029年の開業予定で、残る3棟は2030年代前半の完成見込みだ。
何が起きたのか
事業の名はNYC Borough-Based Jail Program(BBJ)。2017年に始まり、主に管掌するのはニューヨーク市デザイン・建設局(DDC)である。設計は1社が請け負うのではなく、HOK、CetraRuddy、Michael Gravesなど複数の事務所が棟ごとに関わる。
閉鎖には期限がある。2019年に成立した市の条例は、Rikers島の拘置施設を2027年8月31日までに閉鎖することを義務づけた。だが4棟の完成はそこに間に合わない。市はこの期限を守れないと認めており、市議会は期限を先延ばしする条例案の検討に入っている。
DDCが掲げる設計目標には、収監されている人に向けたメンタルヘルスの取り組み、職員と面会者と収監者にとって安全な環境、そして周辺の街と関係を持つ「良い公共建築」が並ぶ。
共通する中身は設計図書から見える。独房には横向きの格子が入った窓があり、ベッド1台、窓の下に机、スツール、便器が置かれる。マンハッタンではHOKが、屋外の明るさに同期するサーカディアンリズム照明を組み込む。古い施設にある強い天井照明を置き換えるものだ。一部の独房には、収監者が自分で操作できる読書灯が付く。
面会の場所にも手が入っている。DDCと各事務所は「温かい」素材で仕上げた開放的な待合を作り、空間を通る動線を明快にした。接触ありと接触なしの面会スペースが分けられ、明るいカーペットと本棚を備えた子どもの遊び場も図面にある。収監者だけでなく面会者と職員にも尊厳のある空間を用意することに力点を置くとされている。
そもそも建築家がこの分野の仕事を受けるべきかは、業界の中で決着していない。2020年、AIAニューヨークは刑務所や拘置所などの拘禁施設の設計から「離れる」よう各事務所に促す声明を出した。一方に、良い建築は収監されている人の暮らしをよりよくできるという立場がある。4棟のうち2棟を設計し、司法施設の設計を専門とする部門を持つHOKは、この種の仕事から「逃げない」と述べる。ニューヨーク拠点のデザインプリンシパル、ケン・ドラッカー氏は、深刻な社会問題の解決を助けるのは建築家の責任だと考えており、そこから逃げはしないとDezeenに語った。同社のcivic + justice部門ディレクター、ジェフ・グッデイル氏は、この設計方針は人がそこで良く生きられるようにするためのもので、常に身構えていなければならない場所にしないためだと説明する。
地元は反対している。工事が進むこの数年、集会や抗議が繰り返されてきた。クイーンズなど一部の棟は、いまも設計の調整が続いている。マムダニ市長はRikers島を市政の「最も深い失敗」の一つと呼び、市は放置の上に組まれた制度を更生を軸にした制度へ置き換えていると述べた。
背景
マンハッタン拘置所はチャイナタウンの125 White Streetに建つ。完成すれば世界一高い拘置所になるという。設計は「4つの垂直な象限」に分けられ、建物の下に高さ16メートル(55フィート)の歩行者通路が通る。HOKによれば、チャイナタウンとリトルイタリー、トライベッカ、南側の公共施設地区が交わる場所に建物を組み込むための通路だ。同じ敷地にあった拘置施設を置き換える計画で、DDCとHOKは地域が設計の過程で「非常に意見を述べてきた」としている。いま敷地の造成が進んでいるが、地元の有力者は最近、敷地の再評価を求める書簡をマムダニ市長に送った。
ブルックリン拘置所はボーラム・ヒルの275 Atlantic Avenue、やはり旧拘置所の跡地にあり、4棟のうち完成が最も近い。南側の低層の街並みの上にそびえる。HOKによれば、設計の主眼は日光を建物の奥まで届かせることに置かれた。各独房は屋外空間に直結し、その屋外はエキスパンドメタルの防護メッシュで全周を囲われている。グッデイル氏によると、中央の屋外空間まで職員が連れて行く方式の施設では、実際には行けないことが多い。居住ユニットに屋外を直結させれば、毎日出られるという。外装は固定ルーバーで日射の角度を制御し、近隣に見られる素材に合わせてテラコッタを用いた。
ブロンクス拘置所はモット・ヘイヴンで、設計はCetraRuddy、Lumen Architects、Urbahn Architectsの3社が担う。11階建てで、旧病院とニューヨーク市警の車両保管場の跡地に建つ。DDCによれば、1階に約3700平方メートル(4万平方フィート)の地域用・商業用の空間が入り、ほかに施設内のサービスとプログラムのための場所、屋内外のレクリエーション、給食、職員の事務室と設備が置かれる。子どものための場所や、授乳中の母親のための場所も設けられる。2026年3月に開かれた最後の住民設計会議では、Urbahn Architectsのアソシエイトプリンシパル、ラリー・グッターマン氏が、建物の3層分の低層部が近くの連棟住宅の高さに合わせてあると説明した。メッシュを張った塔の部分は、周囲の工業建築の規模に呼応するという。設計側によれば、住民の主な懸念は建物の大きさで、いくつかの段状のボリュームに分けることでそれを和らげようとした。
クイーンズ拘置所はキュー・ガーデンズの126-02 82nd Avenue、いまのクイーンズ拘置センターと大きな駐車場が建つのと同じ敷地にある。DDCによれば、4棟のうちここだけが女性と「ジェンダー・エクスパンシブ」な収監者のためのベッドを備える。図面には保育室や、女性用の「法律図書室」といった場所が示されている。敷地には3棟の「居住タワー」が建ち、レクリエーション区域の周りは金属メッシュ、基部はプレキャストコンクリート、上層階は金属パネルとガラスのカーテンウォールで覆われる。事業の一部として、地域用の空間を持つ小さめの立体駐車場が2023年6月に完成し、脇に建っている。直近の設計会議で設計側は、無垢の木の外装をより耐久性のある素材に替えること、全体をADA(障害を持つアメリカ人法)にもっと適合させることなどの変更を進めていると述べた。
日本にとっての意味
日本も、収監の仕組みを更生の側へ寄せる作業をしている。ただし動かした場所が違う。
2025年6月1日、改正刑法が施行され、懲役と禁錮が「拘禁刑」に一本化された。刑の目的は「改善更生」と定められ、作業をさせるだけでなく必要な指導や教育も行えるようになった。明治40年(1907年)に刑法が定められて以来、刑罰の種類そのものが変わるのは初めてである。マムダニ市長が言う「放置の上に組まれた制度を更生を軸にしたものへ置き換える」という作業を、日本は刑そのものを書き換えることでやった。ニューヨークが書き換えているのは建物のほうだ。向いている方向は同じだが、てこを差し込んだ位置が違う。
建物の側にも新しいものはある。2007年4月に開設された美祢社会復帰促進センター(山口県美祢市)は、日本で初めての官民協働の刑務所だ。PFI方式で整備と運営が行われ、収容定員は1296人。犯罪傾向の進んでいない男女の受刑者を収容する。翌年の2008年10月には、島根県浜田市旭町に島根あさひ社会復帰促進センターが同じ方式で開設された。
違いが出るのは、どこに建てたかである。
美祢のセンターが建っているのは、「美祢テクノパーク」という工業団地だった土地だ。地域振興整備公団が造成し、関連する公共事業は美祢市が実施した。ところが1997年9月に分譲を始めてから、一社も進出しないままだった。使い手のつかなかった産業用地に、刑務所が入った。
ニューヨークが建てているのは、チャイナタウン、ボーラム・ヒル、モット・ヘイヴン、キュー・ガーデンズである。どこも人が住み、店があり、数年にわたって反対の集会が開かれてきた場所だ。それでも市は、収監されている人を島から出して、その人たちの裁判所と家族がある街の中に戻そうとしている。日本の新しい2施設は、都市から離れている。ほかに使い道のなかった土地と、山あいの町だ。
更生を軸にすると決めたとき、次に決まるのは誰がその建物の隣に住むかである。ニューヨークはその問いを住宅地の真ん中で引き受けている。日本の答えは、いまのところ地図の上に出ている。