気候・災害

タパヌリオランウータン、鉱山と地滑り・火災の脅威に復興計画なし

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インドネシア北スマトラ州バタントルの森林で、世界で最も希少とされる大型類人猿タパヌリオランウータンが、鉱山開発と地滑り、火災シーズン悪化のおそれに同時に直面している。2025年11月から12月にかけてサイクロンが引き起こした大規模な地滑りから約10か月がたった今も、生息地を立て直すための統一的な復興計画は存在しない。

何が起きたのか

衛星画像によると、現地の2026年6月13日から23日にかけて、北スマトラ州バタントルの金鉱山マルタベ(Martabe)の鉱区内、ランバ・ジョリング採掘場付近の急斜面で、新たに樹木のない裸地が広がったことが確認された。この一帯はタパヌリオランウータンの生息地と重なっている。米国の環境保護団体マイティ・アース(Mighty Earth)はこれを鉱山開発に伴う地滑りとみている。

鉱山を運営するアジンコート・リソーシズ(Agincourt Resources)は、地形や地盤条件、斜面の安定性を考慮した上で計画区域内で発破作業を行った結果、生じた土砂の移動だと説明し、地滑りという見方を否定している。同社は、隣接する新採掘場「トル・ウル・アラ」向けのアクセス道路について2026年には工事を行っていないと述べており、Mongabayが確認した衛星画像もこの説明と矛盾しない。一方でマイティ・アースは、同社の開発計画図を分析した結果、6月に確認された裸地の一部は2030年までの計画区域の外にはみ出していると主張している。

マイティ・アースのフィル・エイクマン(Phil Aikman)氏は、「これらの傷跡の原因が何かだけが問題ではない」と述べ、より大きな問いはサイクロンと開発が続いた後も生息地が存続可能な状態にあるかどうかだとした。マルタベ鉱山では拡張計画が進む一方で、鉱山の環境影響を検証する監査も現在進行中だという。インドネシア環境省のシギット・レリアントロ副大臣は、6月の裸地拡大を把握しているかとの問いに対し、法執行機関に確認してほしいと答え、明言を避けた。

この問題の背景には、2025年11月から12月にサイクロン・センヤー(Cyclone Senyar)がバタントル一帯にもたらした大規模な地滑りがある。最近の衛星分析によれば、この災害でバタントル西部の未開発の森林8300ヘクタール超が損なわれ、タパヌリオランウータン約58頭が死亡したと推定されている。研究者はバタントルに残る同種の個体数を716頭と推定しており、3つに分断された亜個体群からなるとしている。種の長期存続には年間死亡率が1%を超えないことが必要とされるが、今回の推定死亡率はその基準の7倍以上に達した。加えて、強いエルニーニョ期に入ったインドネシアについて、同国の気象気候地球物理庁(BMKG)は今後数か月の干ばつと森林火災のリスクが高まると警告している。

背景

タパヌリオランウータン(Pongo tapanuliensis)は、独立した種として記載されたのは比較的最近とされ、生息範囲は北スマトラ州バタントルの限られた森林にとどまる。絶滅の危険性が最も高い分類とされる種で、世界で最も希少な大型類人猿とも言われる。個体数がもともと少ない上に生息地が分断されているため、一度の自然災害や開発による損失が種全体に与える影響が大きくなりやすいという事情がある。

バタントルは金の産地としても知られ、マルタベ鉱山のような大規模開発とオランウータンの生息地が地理的に重なっている。急峻な地形での採掘や道路建設は斜面を不安定にし、大雨が引き金となって地滑りを誘発しやすいという指摘がある。インドネシアは熱帯の島嶼国として毎年のように山火事のリスクにさらされており、エルニーニョ現象が発生した年は乾燥しやすく、被害が拡大する傾向があるとされる。

サイクロンによる大規模な被害から約10か月が経過したにもかかわらず、生息地を回復させるための省庁横断的な計画は今のところ整っていない。鉱山開発、地滑り、火災リスクという複数の脅威が同時並行で進む一方、それぞれの原因や責任の所在をめぐる説明は当事者間で食い違ったままになっている。

日本にとっての意味

今回の当事者は金鉱山であり、パーム油は今回の報道には出てこない。ただしインドネシアは日本にとって石炭や天然ガス、鉱物資源、パーム油など幅広い品目の主要な供給元である。今回のように環境省が特定の事案への関与を明言せず、大規模災害後の復興計画も示されないままという状況は、供給元となる地域の環境ガバナンスが実際にどこまで機能しているかを測る材料になる。

資源や農産品の調達先で生物多様性への影響がどう管理されているかは、投資先の企業評価や取引先選定の材料として今後より重視されていく可能性がある。タパヌリオランウータンのように個体数が少なく、名前を知る人も少ない種の危機は、こうした供給元の実態を知る手がかりの一つとして心に留めておく価値がある。