北極圏400万の湖を追う地図、永久凍土融解の手がかりに
北極圏には約400万の湖が点在し、その多くが永久凍土の上にある。研究者らは、これらの湖の変化を2016年以降ほぼリアルタイムで追跡できる地図「ロスト・レイクス(Lost Lakes)」を公開した。湖の増減は、地中で目に見えない永久凍土の融解を映す手がかりになるという。
何が起きたのか
ドイツのアルフレッド・ウェゲナー研究所(Alfred Wegener Institute)などが開発に参加したこの地図では、北極圏に散らばる約400万の湖について、2016年以降の変化をたどれる。誰でも無料で使えるよう設計されており、研究者に限らず一般の利用者も閲覧できる。同研究所のリモートセンシング研究者イングマール・ニッツェ(Ingmar Nitze)氏はモンガベイへのメール取材に、「ロスト・レイクスは完全に無料で、専門家と非専門家が同時に使えるよう設計されている」と述べた。
湖が新たにできたり、逆に干上がったりするのは、北極圏では自然に起きる現象だという。ただしニッツェ氏によると、湖の数や変化の速さそのものが、地下で進む永久凍土の劣化の程度を示す手がかりになる。実例として、2018年夏にはアラスカ北西部で200近くの湖が縮小した。この年は冬の気温が例年より高かったことが背景にあるとみられ、ニッツェ氏とアラスカ大学フェアバンクス校のアンナ・リリエダール(Anna Liljedahl)氏がザ・カンバセーション(The Conversation)への寄稿で紹介している。
背景
永久凍土は地中に埋もれているため、広い範囲を直接測るのは難しく、研究者は通常、地面を掘って調べる必要がある。一方、永久凍土の状態と連動して現れたり消えたりする湖は、衛星画像で捉えやすい。ロスト・レイクスは、湖を観測することで地下の永久凍土の様子を推し量るという発想を、大規模なデータに落とし込んだ取り組みといえる。
地面の温度が0℃を超えると、凍っていた土中の氷が融け始め、地表が沈んで水がたまる。これが年月をかけて池になり、さらに湖へと育っていく。ニッツェ氏によれば、西アラスカでは20世紀半ばに形成が始まった池がある一方、北極圏の湖の多くは約1万2000年前ごろから存在するという。周囲の永久凍土がさらに融けると、水を外へ流し出す水路が新たにでき、湖が縮小することがある。
永久凍土には大量の炭素が蓄積されてきたとされる。植物や動物、微生物の遺骸が凍った土の中に閉じ込められる形で、数百年から数千年という長い年月をかけて積み重なってきたものだ。北極圏は地球全体の平均を上回るペースで温暖化が進んでいるとみられる。融解に伴ってこの炭素の一部が大気中に放出されれば、温暖化をさらに後押しし、融解を加速させる循環につながりうるとニッツェ氏は指摘する。永久凍土の状態を知ることは建築の観点でも意味を持つ。氷を多く含む永久凍土がある地域は不安定になりやすく、建設に適さない可能性があり、氷が少ない地域の方が比較的安全だと、ニッツェ氏とリリエダール氏は述べている。
日本にとっての意味
日本にも永久凍土がある。その一つが北海道の大雪山だ。
国立環境研究所と北海道大学北極域研究センター、北海道大学低温科学研究所、海洋研究開発機構の研究チームは2021年7月30日、大雪山の永久凍土に関する論文を科学誌サイエンティフィック・リポーツに発表した。2000年から2010年の平均で、大雪山で「永久凍土を維持する気温環境」にある地域は150平方キロメートル程度と推定されるという。温室効果ガスの排出が続く想定では2070年ごろに完全に消失し、排出を抑える想定でも2100年時点で2000年代の10分の1程度に減る。
推定の仕方がロスト・レイクスと通じている。研究チームは凍土そのものを掘って測ったのではない。日本全国を1キロメートル四方に区切った気象データに、過去の永久凍土の観測から得られた関係式をあてはめて、凍土が保たれる気温環境の広がりを出した。北極圏で湖を数えるのも、地中の凍土を直接測れないからである。
規模は違う。北極圏の400万の湖に対し、大雪山で凍土が保たれうる範囲は150平方キロメートルにとどまる。それでも、見えないものを地上に出ている別の量から推し量っているという点では同じ作業だ。そして、どちらの推定も、この先の気温という同じ一つの変数にかかっている。