アゼルバイジャン、スパイ罪のフランス人男性を恩赦
アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領は現地時間9月23日、スパイ容疑で禁錮10年の判決を受けていたフランス人男性マルタン・リアン(Martin Ryan)氏を大統領令により恩赦したと、地元メディアが報じた。リアン氏は2026年3月、首都バクーの重大犯罪裁判所で有罪判決を受けた。フランス外務省はこの判決を非難し、釈放を求めていた。
何が起きたのか
現地の通信社APAによると、アリエフ大統領は複数の受刑者をまとめて恩赦する大統領令に署名し、その中にリアン氏が含まれていた。大統領令は、恩赦の理由として受刑者らの「人格、健康状態、家族の事情」などを考慮したと説明している。個別の減刑理由や、他に恩赦された人物の身元については伝えられていない。
リアン氏は2026年3月、バクーの重大犯罪裁判所でスパイ活動の罪により禁錮10年を言い渡された。フランス外務省は7月の声明で、この判決を非難し、リアン氏に対する容疑そのものを否定した上で即時釈放を要求していた。
背景
アゼルバイジャンとフランスの関係は、近年ぎくしゃくしているとみられる。アゼルバイジャンと隣国アルメニアはナゴルノカラバフをめぐり長年対立してきたが、フランスはアルメニア寄りの立場を取ってきたとされ、アゼルバイジャン政府はフランスを名指しで批判することがある。フランス政府はアゼルバイジャンによるフランス人の恣意的な拘束を批判してきた。
恩赦の前日にあたる9月22日、EUはロシアの富豪アリシェル・ウスマノフ氏らへの制裁を解除している。ロイター通信は欧州の外交官3人の話として、アゼルバイジャンで拘束されているフランス人2人をめぐり、アゼルバイジャン側がウスマノフ氏の制裁問題をフランスへの圧力に使っているとパリ側が非公式に伝えていた、と報じた。アゼルバイジャン側は、ウスマノフ氏を交渉の梃子に使ったとの見方を否定している。大統領令が挙げている理由は人格、健康、家族の事情であり、恩赦と制裁解除の関係が公式に説明されたわけではない。
日本にとっての意味
外国で自国民がスパイ罪に問われたとき、判決の後に何が起きるのかは、その国の政府の働きかけだけでは決まらない。日本にも同じ形の事案が積み上がっている。
政府が2025年4月18日に出した答弁書によれば、中国の反スパイ法の運用に関連して2014年以降に中国で拘束された日本人は、2025年4月14日までで合計17人である。各事案の概要について、政府は個人情報が含まれることなどを理由に答えを控えている。
日本政府が何をしてきたかは、同じ答弁書に書かれている。岩屋外相は2025年3月24日の参議院外交防衛委員会で、前年12月に訪中して行った日中外相会談の際、王毅外交部長に対して拘束された日本人の早期釈放を求め、そのうえで反スパイ法の運用の透明性の向上も求めたと述べた。東京での日中外相会談でも同じ申し入れをしたという。答弁書は、こうした働きかけを「粘り強く継続していく考えである」と結んでいる。
結果は出ていない。アステラス製薬の日本人社員は2025年7月16日、北京市第2中級人民法院でスパイ活動を行ったとして懲役3年6月の実刑判決を受け、上訴しないまま刑が確定した。
アゼルバイジャンの事例で大統領令が恩赦の理由に挙げたのは、人格と健康と家族の事情だった。だが外側には別の材料が出ている。前日のEUによる制裁解除と、それをめぐる交渉を伝えた通信社の報道である。日本の事案で外に出ているのは、17人という人数と、外相会談で早期釈放を求めたという記録と、上訴されないまま確定した判決だけだ。政府は各事案の概要を、個人情報が含まれることなどを理由に明らかにしていない。判決の後に何が起きるのかを外から追えるかどうかは、その事案がどれだけ公の場に出るかによって決まっている。