海洋熱波と酸性化が同時発生、40年分の衛星データで解析
2014〜2015年に太平洋で発生した「ブロブ」と呼ばれる海洋熱波は、米国とメキシコを合わせた面積より広い海域を温め、有毒藻類の異常発生や漁業への打撃、海鳥や海獣の大量死を招いた。この事象では、水温の異常だけでなく、海水の酸性度も同時に強まっていたことが分かっている。こうした「熱波と酸性化の同時発生」を体系的に調べた研究が、2026年8月に学術誌AGU Advancesに発表された。
何が起きたのか
スイス連邦工科大学チューリッヒ校の研究陣は、1982年から2024年までの月ごとの海洋酸性度の地図を作成し、水温データと重ね合わせることで、熱波と酸性化が同時に起きた事象を500件特定した。研究陣は、これらの複合事象が「偶然に予想されるより高い頻度」で起きていると結論づけている。
特定された事象の67%は3か月未満の短期間で、平均の広がりは約50万平方キロメートルだった。一方で、最も長いものは20か月続いた。太平洋東部の赤道域と極域ではこうした複合事象がまれだったのに対し、2016年に南西太平洋で起きた事象は400万平方キロメートルに及んだ。研究者のルーク・グレゴール氏は、外洋で起きるためこれまで見過ごされてきたとみられるとしつつ、「だからといって海の生物が影響を受けていないわけではない」と述べている。
背景
衛星による海面水温の観測は1970年代後半から続いており、長期のデータが蓄積されている。しかし海水の酸性度は衛星で直接測れず、これまでは商船に搭載した二酸化炭素センサーによる観測に頼ってきた。船の航路上でしか測れないため、海洋全体で見るとデータの欠けている場所が多い。
この研究では、水温・塩分・クロロフィル量など衛星で広く測れる要素を手がかりに、機械学習で酸性度を推定する手法を使った。これにより、船の観測記録が乏しい海域も含めて、海氷域を除く海の酸性度の変化を月単位で追えるようになった。大気中の二酸化炭素濃度の上昇が海の酸性化を進め、気候変動が熱波を強めている中、両者が重なる仕組みを理解することは、漁業への影響を考えるうえでの出発点になるとされる。今回の研究の知見は、発達しつつあるとされる2026〜2027年の「スーパーエルニーニョ」にも関わる可能性があるという。
日本にとっての意味
気象庁が1967年から続ける東経137度の定線観測は、北緯34度から北緯3度まで黒潮と北赤道海流を横断している。気象庁は亜熱帯域について「pHは水温によって変化するため、水温の低い冬季にpHが高く、水温の高い夏季にpHが低くなる」と説明する一方、赤道域では二酸化炭素を多く含む深層の海水が湧き上がる「湧昇」によってpHが低くなるとしている。
今回の研究は、海水が上下に混ざりにくい成層した海域で複合事象が起きやすいとしており、亜熱帯域についての気象庁の説明と重なる。気象庁によれば、この定線の表面海水中pHは1985〜2025年の間、10年あたり平均マイナス0.019のペースで下がり続けている。