NASA望遠鏡SPHEREx、褐色矮星37個を分光 大気モデルとのずれ判明
NASAの宇宙望遠鏡SPHEREx(スフィアエックス)が、褐色矮星と呼ばれる天体37個を分光観測し、水やメタン、二酸化炭素、一酸化炭素といった分子の存在を示すスペクトルを得た。この成果は学術誌The Astrophysical Journalに発表された。既存の大気モデルについては、化学組成の全体的な傾向はおおむね再現できる一方、雲が薄れていく段階の様子をうまく説明できないことも分かった。
何が起きたのか
研究チームは、太陽系に近い褐色矮星37個を観測した。対象は摂氏約2200度から約マイナス20度まで、褐色矮星としてありうる温度のほぼ全域にわたる。SPHERExは光を102種類の波長に分けて明るさを測り、そこから天体ごとのスペクトルを作り出す。
このスペクトルには、水やメタン(CH4)、二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)といった分子が光を吸収した痕跡が刻まれていた。研究チームによると、これらの分子が作る吸収の形は天体が冷えるにつれて変化し、雲の多い段階からメタンの多い段階へ移り変わる時期に特に複雑になる。論文の主執筆者であるラスタムクロフ氏は「最新のモデルは化学組成の大まかな傾向はつかめているが、この雲が晴れていく過程になると、データにうまく合わなくなる」と述べている。SPHERExは2025年3月に打ち上げられた宇宙望遠鏡で、全天を繰り返し観測する中で褐色矮星も捉えている。研究チームはさらに数千個の解析を進めているという。
背景
褐色矮星は、星と同じようにガスの雲が収縮して生まれるが、水素の核融合を持続させるには質量が足りない天体で、木星より重く恒星より軽い中間的な存在とされる。1990年代に初めて発見が報告された比較的新しい研究対象だ。宿主となる恒星を持たず、自らの余熱だけでかすかに光りながら漂っている点が惑星とは異なる。
褐色矮星のスペクトルの特徴がよく出る2.5〜5マイクロメートル帯は、地球の大気中の水蒸気がその光を吸収してしまうため、地上の望遠鏡では観測が難しいとされる。この波長帯を宇宙望遠鏡で詳しく分光された褐色矮星はこれまでごく少数にとどまり、その大気の様子や雲の振る舞いについての理解は理論モデルに頼る部分が大きかった。
日本にとっての意味
地上からの観測が難しい2.5〜5マイクロメートル帯で、褐色矮星の連続したスペクトルを世界で初めて取得したのは、日本の赤外線天文衛星「あかり」だった。2006年に打ち上げられた「あかり」は、2010年に発表された観測で、晩期L型からT型にかけての褐色矮星からCO2の4.2マイクロメートル帯の吸収を初めて確認した。ただ、その強さは比較対象となった大気モデル(東京大学の辻隆氏らが2000年代初めに作ったUCM)の予測を上回り、当時は説明のつかない謎として報告された。
今回SPHERExが37個の褐色矮星で報告した、モデルとの食い違いが最も大きくなる波長も、このCO2やCOの吸収帯付近だった。「あかり」の分光データはJAXAのDARTSで公開されており、今も誰でも再解析できる。