クライスラービル、借地を引き継いだ開発会社が改修へ 外観を修復し、空き区画の75%に内装
ニューヨークのクライスラービルで、不動産開発会社ティシュマン・スパイヤーが改修計画を発表した。同社はビルの借地契約を引き継ぎ、外観を修復して内装を新しくする。改修には、地代とは別に2億3500万ドルを投じる。
何が起きたのか
ビルが建つ土地は、1902年から私立大学クーパー・ユニオンが持っている。同大は2026年10月7日(米東部時間)、ティシュマン・スパイヤーと150年間の借地契約を結んだと発表した。
計画では、外壁を修復し、頂部の冠のような飾りを磨き直す。内部は高級オフィスに改め、設備も新しくする。空いている区画と近く空く区画の75%には、借り手がすぐ入居できるよう内装をあらかじめ整えておく。ワシの頭をかたどったアール・デコ様式の飾り(ガーゴイル)で知られる61階は、テラスに出られるラウンジや飲食の場を備えた共用の階に変える。運動やウェルネスの施設は地下に置く。ビルは歴史的建造物の指定を受けているため、公共空間の多くはそのまま残す必要がある。
開発会社が公開した完成予想図には、飾りを抑えた空間に、アール・デコ風の家具や石と木の床が描かれている。カナダの公的年金運用機関PSPインベストメンツなどが出資に加わるが、設計や内装を担う事務所はまだ明らかにしていない。
背景
クライスラービルは、建築家ウィリアム・ヴァン・アレンが自動車会社クライスラーのために1920年代に設計した。延べ床面積は約12万平方メートル(130万平方フィート)で、いまもアール・デコ建築の代表例とされる。ティシュマン・スパイヤーは1990年代にこのビルを買って改修し、2008年に持ち分の大半を売っている。2024年には米紙ニューヨーク・タイムズが、当時の持ち主のもとで建物が傷んでいると報じた。
地代はクーパー・ユニオンに直接入る。同大は建築やデザインの教育で知られる。スティーブン・W・マクラフリン学長は「1世紀以上にわたり、クライスラービルは、経済的な壁を取り払って教育を開くというピーター・クーパーの理念を支えてきた」と述べた。
日本にとっての意味
名建築を残す費用を、新しく建てられる床面積で生み出す仕組みが、日本にもある。東京都の特定街区の運用基準には「重要文化財保存型」という区分があり、重要文化財の建物を保存・復元すると、残した床面積の分だけ街区の容積率を上乗せできる。
その例が、東京・丸の内の明治生命館である。1934年に完成し、明治安田生命によると、1997年に昭和の建造物として初めて国の重要文化財に指定された。東京都環境局の資料では、明治生命館を保存・再生しながら隣に地上30階の明治安田生命ビルを新築し、2004年に完成している。
古い建物を残すには、建物自体を稼げる場所にし続ける必要がある。クライスラービルは改修の費用を開発会社が負担し、明治生命館は隣の高層ビルに床面積を回すことで、それぞれ保存の費用をまかなっている。