ボルネオの野火で淡水が失われ野生動物が村や海岸へ
インドネシア西カリマンタン州で続く野火により、森の水たまりが乾き、村のため池が汽水化している。水を求めた野生動物が住民の集落や海岸近くへ移動し、現地の住民や保護団体が水の提供や救助に動いている。州都ポンティアナックでは水道の原水にも塩分が及び、市外からの淡水の搬入を余儀なくされた。
何が起きたのか
現地の非政府組織プラネット・インドネシアによると、海岸部のクブ・ラヤ地区では現地時間の8月上旬から9月下旬にかけて、シルバールトンやカニクイザル、絶滅危惧種のテングザルなど少なくとも16頭の死亡が確認された。同団体は、2020年9月から約6年間の巡回記録で死亡が確認された動物13頭(主に自然死または原因不明)と比べて異例の多さだとしている。共同創設者のアダム・ミラー氏は「マングローブが淡水を失えば、動物は死ぬ」と述べた。
現地で活動する保護団体YIARIは、8月以降クタパンと北カヨンの火災被害地域から43頭のオランウータンを救助したと説明する。多くが火傷や脱水、栄養不良を抱えていたという。同団体がこれほどの救助の急増に直面したのは、2015年のエルニーニョ以来だ。
乾燥は海岸部の淡水供給にも及んでいる。州都ポンティアナックの水道事業がカプアス川などから取る原水の塩分濃度が上昇し、現地時間の9月19日にはクブ・ラヤ地区から500万リットルの淡水が搬入され、浄水場で処理された。プラネット・インドネシアと村の巡回チームは森の中に6か所の給水場所を設け、カメラトラップを設置した。最初の2か所の設置から1時間以内に、シルバールトンの群れやテングザルの母子がすでに水を飲みに来ていたという。
背景
インドネシア気象気候地球物理庁(BMKG)は、同国が非常に強いエルニーニョの影響下にあり、2027年初めまで続く見通しだとしている。9月の降水量は、カリマンタンの広い範囲で10日あたり50ミリ未満とされた。
火災監視プラットフォームのヌサンタラ・アトラスによると、2026年1月から8月までにインドネシア全土で89万5657ヘクタールが焼失した。同プラットフォームの集計では、2019年と2023年を除くどの年の通年の焼失面積も上回る規模だという。西カリマンタン州では同期間に7万9391ヘクタールが焼失し、全国で3番目に被害が大きい州となった。うち5万3893ヘクタールは8月だけで焼けたとされる。
乾季が長引くと河川を流れ下る淡水の量が減り、河口付近では比重の軽い淡水の下に海水がくさび状に入り込みやすくなる。通常の乾季であれば雨と河川の流れが沿岸の湿地を満たし、海水の内陸への広がりを抑えているとみられる。
日本にとっての意味
同じ海水の遡上は、日本では河口の水門操作によって日常的に抑えられている。江戸川は東京・千葉・埼玉に住む約1,000万人の水源であり、千葉県市川市の行徳可動堰と東京都江戸川区の江戸川水閘門の二つの施設が塩水の遡上を防いでいる。水閘門は常時の開閉操作によって、水道水源として適正な塩分濃度以下になるよう管理されている。
利根川河口堰も同様に塩分濃度を管理しているが、単純に塩水を遮断するのではなく、堰の上流部に生息する生物の生育環境に配慮しながら遡上量を調節している。西カリマンタンで起きたのは、河口で淡水の流れそのものが細り、野生動物の水場と都市の水道原水が同じ経路でともに失われた事態だと読める。