宇宙・科学

ISSへ補給船、薬剤耐性菌追う実験が最終回に

米国 の記事一覧 ・ 南北アメリカ

SpaceXが運用するNASAの35回目の商業補給ミッション(CRS-35)が、米フロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地から国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げられる計画だと、NASAが現地時間10月12日に発表した。搭載されるのは脳の立体モデルや作物の病気を扱う実験、宇宙飛行士の健康を素早く調べる装置、そして薬剤耐性菌の変化を追う実験など4件の研究。中でも耐性菌の実験は4回目にして最後の実施となる。

何が起きたのか

今回の4つの研究はNASAの生物・物理科学部門が主導する。薬剤耐性菌を調べる実験では、宇宙飛行士がステーション内のさまざまな場所の表面から繰り返し試料を採取し、無重力環境で薬剤耐性菌がどう生き残り、どう変化していくかを追跡する。地上で抗菌薬の使い過ぎから「スーパーバグ」と呼ばれる耐性菌が生まれる過程を理解する手がかりになるとされている。

このほか、実験室で培養した小さな脳の立体モデルをISSに送って5週間置き、地上に残した同じモデルと比較して、短期間の宇宙飛行が細胞レベルで脳にどう影響するかを調べる。将来の月以遠の有人探査で飛行士の脳の健康を脅かすリスクへの対策につながる可能性があるという。

また、病気を引き起こすカビに感染させた植物を地上と宇宙で育て、分子や組織の変化を比較する実験。無重力下で作物の病気が地上より早く重く進むかどうかを確かめる。結果は地上での病気に強い品種づくりや、将来の宇宙農業での収穫減対策に役立つとされる。

2026年にすでにISSに届いている小型の装置「マイクロプレートリーダー」の試験も行われる。抗体や抗原、たんぱく質といった生体指標を検出・測定できる装置だ。試料を地球に持ち帰らずステーション内で素早く分析できるようになれば、再補給が難しい遠い探査先での飛行士の感染や健康問題を早期に見つける助けになるという。

背景

ISSは空気も水も循環させながら長期間人が暮らす閉鎖環境とされる。地上と行き来する人や物資は限られ、感染症が起きても地上の病院のように外部からすぐ助けを呼べるわけではないという。そのため、どんな微生物がどこに潜み、どう増減しているかをあらかじめ把握しておくことが、飛行士の安全にとって重要とされている。

薬剤耐性菌は地上の医療現場でも大きな課題であり、微小重力下で耐性菌の生き残り方や変化を繰り返し追えるISSは、地上の病院とは違う条件でデータを集められる場になっているとみられる。

日本にとっての意味

表面から繰り返し試料を採取して微生物の経時変化を追う手法は、日本の実験棟「きぼう」でも稼働開始から7年間に計5回実施されている。JAXAと帝京大のグループは、今回のNASA実験が対象とする細菌ではなく真菌の群集(真菌叢)を解析し、「宇宙飛行士の健康維持には定期的な清掃と微生物検査の実施が有効」と結論づけた(2021年8月公表)。対象の微生物は異なるが、閉鎖環境では定期的な検査そのものに価値があるという立場だ。

一方、地上の病院向けに厚生労働省が出した通知(平成26年12月19日医政地発1219第1号)は、環境微生物検査について「必ずしも施設の清潔度の指標とは相関しない」として、一律の定期実施ではなく感染経路を疫学的に把握する際など必要な場合に限るよう求めている。似た表面検査でも、きぼうでは定期実施が有効とされ、地上の病院では限定的な実施に位置づけられている。