クックストーブ型クレジットに森林消失対策、国連機関が初の義務化
国連のパリ協定6条4項監督機関(Article 6.4 Supervisory Body)が、薪や炭の使用を減らす「クックストーブ」事業のカーボンクレジットに、森林消失のリスクへの備えを初めて義務付けた。業界団体やNGO、国連環境計画(UNEP)が求めた免除は認められなかった。対象は、効率的な調理器具の導入などに使う新しいクレジット算定ルール(方法論)2件。
何が起きたのか
監督機関はドイツ・ボンで開いた会合の最終日である現地時間10月9日、クックストーブ事業向けに2つの方法論を承認した。一つは燃料消費を減らす効率的なストーブを配る事業向け、もう一つは電気や液化石油ガス(LPG)を使う調理器への切り替えを促す事業向けである。
効率的なストーブの事業は、本来なら薪として伐採されていたはずの木を守ることで生まれる削減効果に基づいてクレジットを発行する。だがその木が後に火災や伐採で失われれば、見込んでいた削減効果も失われてしまう。
今回の決定は、このリスクに備え、一定割合のクレジットを売らずにバッファープール(buffer pool、将来の消失に備えて共同で積み立てておくクレジットの枠)に預けることを事業者に義務付けた。積立の割合は、火災や干ばつなど自然要因のリスクは独立した科学者チームが示す地域別の値を使い、伐採など人為的なリスクは一律20%とする。人為リスク分は最大で3分の2減らせる余地がある。
業界団体プロジェクト・ディベロッパー・フォーラムの担当者は「失望している」とコメントし、新ルールはすでに質の改善が進んでいる分野に重い負担をかけることになると述べた。
背景
クックストーブ向けクレジットは、カーボン市場で最も人気のある種類の一つだが、気候への効果を過大に見積もっているとして最も批判されてきたものの一つでもある。業界側やNGO、UNEPは、このクレジットは過去に蓄積された炭素が一気に放出されるリスクを負う森林保護のようなストック型ではなく、排出回避が継続的に積み重なるフロー型だとして、積立義務の対象から外すよう求めていた。
自然リスクの算定では、事業者や各国が別の値を使うことも、提案を監督機関の専門家パネルが検証し、監督機関自身が承認する手続きを経れば認められる。
ブリュッセルを拠点とする監視団体カーボン・マーケット・ウォッチの専門家は、今回の決定は科学に基づく新たな基準を示すものだと評価し、この手法が自主的なカーボン市場の他の仕組みにも広がることを期待していると述べた。
日本にとっての意味
日本の森林由来クレジットにも、よく似た「取り置き」の仕組みがある。J-クレジット制度の森林管理プロジェクトでは、自然攪乱や収用などの避けがたい土地転用といった「自らの責に帰し得ない事由」で森林が失われた場合に備え、認証量の3%を一律でバッファー管理口座に預けている。
ただし決め方は6.4のルールと異なる。6.4は科学的な地域別モデル値と人為リスク分を組み合わせて割合を決める。J-クレジットは地域やリスクの大小にかかわらず定率の3%のみである。
区分の仕方も違う。6.4は積立の割合を自然要因と人為要因に分けて算定する。J-クレジットは消失が実施者の責によるかどうかで扱いを分け、自らの責による消失(主伐など)はバッファーを使わず、事業の実施者自身が認証量を補填する仕組みになっている。