天の川の陰に隠れた銀河団衝突、チャンドラが「ト音記号」の謎に迫る
NASAが米国時間10月14日に発表した研究によると、天の川銀河の陰に隠れていた「ト音記号」(Treble Clef)形の電波構造は、超巨大ブラックホールの爆発とその後の銀河団衝突が重なってできた可能性が高いという。イタリア国立天体物理学研究所(INAF)のアンドレア・ボッテオン氏らの研究チームが、X線観測衛星チャンドラなどのデータを解析して結論づけた。
何が起きたのか
この電波の雲は天の川銀河の円盤のほぼ真後ろにあり、星やガス、塵に視界を遮られて正体が分かっていなかった。研究チームはX線観測衛星チャンドラとドイツのeROSITA、電波望遠鏡網LOFAR、英国赤外線望遠鏡UKIRTのデータを組み合わせた。その場所に、数千万度の高温ガスをまとう銀河団があることを突き止めた。さらに詳しく調べると、この銀河団は実は二つの銀河団が合体しつつある状態だと判明した。
チャンドラの画像を解析した結果、二つの銀河団は画像の左右方向から衝突した可能性が高いことが分かった。研究チームは、衝突が起きたのは数億年前で、今は二つの銀河団が互いに離れつつある段階にあると推定している。
電波の雲自体の成り立ちはこうだ。まず銀河団中心の超巨大ブラックホールが起こした爆発で、荷電粒子と磁場の雲が光速近くで吹き出し、明るい電波を発したとみられる。この電波はいったんエネルギーを失って暗くなったが、その後の銀河団衝突で粒子が圧縮・再加速され、再び明るくなったと考えられている。衝突で生じた衝撃波が、この再加速に関わった可能性もあるという。なお「ト音記号」に見えるのは偶然の一致で、音楽記号との科学的な関係はない。
背景
銀河団は宇宙最大級の構造で、数百の銀河と、それらを包む数千万度の超高温ガスを抱えている。このガスには高エネルギー粒子が放つ電波の雲が伴うことがあり、銀河団の中心部でガスの乱流が粒子を再加速して輝くとみられるものを電波ハロー(radio halo)と呼ぶ。今回のト音記号は、ブラックホールの活動と銀河団衝突という二つの出来事が時間差で重なって働いた珍しい例とみられる。
衝突そのものは直接観測されていない。研究チームはX線で見える高温ガスの分布に球対称のモデルを当てはめ、それを差し引いた「残差」の画像を作った。その残差が画像の左右で明るいというゆがみを示していたことから、衝突の方向を逆算した。
日本にとっての意味
チャンドラはガスの形のゆがみから衝突の痕跡を間接的に読み取ったが、日本主導のX線分光撮像衛星XRISM(日本時間2023年9月7日に打ち上げ)は、同じ問いをガスの速度そのものから直接測る手段を持つ。XRISM搭載の分光装置Resolveは、鉄が出すX線の輝線のずれと幅を精密に読み取ることで、高温ガスの動きを直接測定できる。
奈良女子大学の太田直美氏らがResolveで観測した、ほかの銀河団と影響し合っている銀河団アベル3395南では、ガス全体は視線方向に秒速263±23キロメートルで動いている一方、細かな乱れ(乱流)は秒速124±21キロメートルにとどまっていた。この銀河団には電波ハローが見つかっておらず、これは乱流による粒子の再加速が現在は非効率だという見方と符合するという。