鳥インフルエンザ想定の抜き打ち訓練、米医療機関で接触歴確認わずか1割
アメリカの公衆衛生当局は現地の2026年1月から6月にかけて、鳥インフルエンザの模擬患者を使った抜き打ち訓練を医療機関で実施した。結果は米疾病対策センター(CDC)の週報(MMWR)にまとめられている。症状の確認は9割を超える訓練で行われたが、動物との接触歴を尋ねた訓練は10件に1件程度にとどまった。
何が起きたのか
ニュージャージー州、ニューヨーク州、米領バージン諸島の救急外来、アージェントケア(urgent care、予約なしで受診できる外来診療所)、外来クリニックを対象に、俳優が演じる模擬患者を事前連絡なしで送り込む訓練が69施設で73回実施された。目的は、鳥インフルエンザのような重い感染症が疑われる患者を、入口でどれだけ早く見つけて隔離できるかを実測することだった。
症状の確認は93.2%の訓練で行われ、渡航歴の確認も79.5%で実施された。患者にマスクを着けさせた訓練(82.2%)に限ると、到着からマスク着用までの時間は中央値2分で、1分以内という目標を1分超えた。
一方、動物や鳥類との接触歴を尋ねた訓練は9.6%にとどまった。隔離を行った訓練(71.2%)では、到着から隔離までの時間は中央値11分で、10分の目標をわずかに超えた。マスク着用と隔離の両方が行われたのは60.3%、推奨される個人防護具をすべて着用したのは25.0%で、防護具を一切着けなかった訓練も5.9%あった。院内の感染対策チームへ連絡する予定だった訓練は54.8%だった。模擬患者が鳥インフルエンザの危険因子を持つ人物として識別されたのは63.4%だった。
研究チームは「これらの訓練は、発熱のある感染疑いの患者をより早く見つけ、マスクを着け、隔離するための職員研修の必要性を示した」と述べている。
背景
米国では現地の2024年3月以降、乳牛の群れで鳥インフルエンザ(H5N1)の感染が相次ぎ報告されており、動物との接触が人への感染経路の一つとみられている。感染が確認された州は19にのぼる。2026年に感染が確認された牛群は93群で、2024年の917群、2025年の171群に比べると落ち着いているものの、感染自体は続いている。
新型コロナやエムポックス(サル痘)、麻疹といった感染症の流行を経て、米国では医療機関の入口で疑わしい患者を速やかに見分け、隔離する体制の重要性が指摘されてきた。今回の調査は抜き打ち訓練という形で、文書上の体制ではなく実際の初動を測った点に特徴がある。
日本にとっての意味
米国の訓練で抜け落ちたのは、動物との接触歴を尋ねる質問だった。日本ではこの質問が、医療機関から保健所への連絡を分ける境界線そのものになっている。厚生労働省の通知が定める「要観察例」は、発熱と呼吸器症状だけでは当たらず、感染疑いの動物や患者との接触歴などの条件を満たして初めて該当する。
他方、日本の医療機関側の備えの点検は、感染症法に基づく医療措置協定を結んだ医療機関が年1回、医療機関等情報支援システム(G-MIS)で運営状況を報告する仕組みが柱になっている。報告項目には「年1回以上、自機関の医療従事者に対して、研修又は訓練を実施したか」が含まれ、外部機関が行う研修・訓練への参加も含めてよいとされる。外部が入口での実際の対応時間を測った米国の仕組みとは、点検の作り方が異なる。