科学への信頼、世界140カ国調査で72%に低下 コロナ禍の高さから反落
英国の医療慈善団体ウェルカム・トラスト(Wellcome Trust)が140カ国、14万人以上を対象に実施した調査で、科学を「信頼する」と答えた人の割合が72%となり、2020年の80%から下がったことが分かった。生活に余裕がない人ほど信頼の低下が大きく、医療制度への信頼が高い人ほど科学への信頼も高いという相関も示された。
何が起きたのか
この調査「Wellcome Global Monitor 2026」では、科学を「ある程度」信頼すると答えた人が45%、「大いに」信頼すると答えた人が27%で、合わせて72%だった。2018年の77%、2020年の80%から段階的に下がっている。「あまり」または「全く」信頼しないと答えた人は19%で、2018年と2020年の13%から増えた。
科学者個人への信頼も同様の傾向で、「大いに信頼する」は32%にとどまり、2020年の43%から大きく下がった。信頼が最も高かったのはアメリカ、カナダ、欧州で、最も低かったのはサハラ以南アフリカと東アジアだった。
現在の収入で「生活が苦しい」と答えた人では、科学を「大いに」信頼する割合が2018年から2025年にかけて8ポイント下がった。一方、収入に余裕があると答えた人の信頼度はほぼ変わらず、約40%で安定していた。自国の医療制度を信頼していると答えた人では「大いに信頼する」が43%に達し、全体の26%を大きく上回った。
ウェルカムの最高経営責任者ジョン・アーネ・ロッティンゲン(John-Arne Røttingen)氏は報告書の序文で、今回の結果は「低い信頼を単に知識や理解の不足として扱うことへの戒めになるはずだ」と記した。「科学は自国の多くの人の役に立っている」と考える人の割合も、世界全体では2018年の42%から2025年の37%に下がっている。
背景
2020年の調査は新型コロナウイルスの感染拡大のただ中で実施され、科学への信頼が一時的に押し上げられたとみられる。今回の結果はその反動を含んでおり、米ノートルダム大学の研究者ティム・ウェニンガー(Tim Weninger)氏は、これを「信頼の危機」ではなく「浸食」と呼ぶべきだと指摘している。
ウェニンガー氏は、72%という水準自体は依然高いとも述べた。同氏が関わった別の68カ国調査(2025年、Nature Human Behaviour誌)でも、科学者への信頼度は5段階評価で3.62という比較的高い値だったという。
日本にとっての意味
東アジアは、サハラ以南アフリカと並んで信頼が最も低い地域に入った。ただし報告書は、中国で調査方法が回次ごとに変わり、人口規模の大きさから世界全体の数字に影響していると注記しており、中国を除くと2018年から2025年の信頼はより安定して見えるという。
2026年3月に閣議決定された第7期科学技術・イノベーション基本計画は、科学技術への信頼に揺らぎが生じている国もあるとして他国の事象に位置づけ、「一般市民の正しく、深い理解」と科学技術への信頼の獲得を掲げている。同じ箇所では、科学技術コミュニケーションを「単に科学的知識を一般の方々に伝えるだけでなく」双方向の対話を通じた社会的合意形成に資する取組とすることも求めている。今回の調査が信頼の高低を知識の多寡ではなく収入や制度への信頼度と結びつけたことは、その対話を何に向けるかという論点に関わる。