インドネシアの森林火災、煙害がマレーシアへ越境し学校閉鎖
インドネシア領ボルネオ島の西カリマンタン州で相次ぐ森林火災による煙害が、国境を越えてマレーシア領ボルネオのサラワク州に広がっている。現地時間8月12日、サラワク州テベドゥ地区の大気汚染指数(API)が「非常に不健康」とされる200を超え、当局は学校6校を休校としオンライン授業に切り替えた。インドネシアの火災シーズンはこれから最盛期を迎えるとみられ、越境煙害はさらに悪化する可能性がある。
何が起きたのか
国境に近いサラワク州テベドゥ地区では現地8月12日、大気汚染指数が200を超え、これを受けて学校6校が休校となった。スイスの大気質技術企業IQAirは、サラワク州都クチンを現地8月11日時点で世界で最も大気汚染が深刻な主要都市に位置づけた。マレーシアの大気汚染指数管理システム(APIMS)によると、サラワク州内で「不健康」な数値を記録した地域は現地8月9日の8カ所から、同11日には11カ所に増えた。東南アジアの森林火災と越境煙害を監視するASEAN専門気象センター(ASMC)は、7月中の複数日にわたり西カリマンタン州からサラワク州西部に煙が流れ込む様子を確認したという。煙害の発生源となっている西カリマンタン州では州都ポンティアナックでも被害が深刻化し、当局は学校の対面授業を無期限で停止しオンライン授業に切り替えた。
インドネシア国家災害対策庁(BNPB)によると、火災対策の優先6州(スマトラ島のリアウ、ジャンビ、南スマトラと、ボルネオ島の西カリマンタン、中カリマンタン、南カリマンタン)で現地8月9日時点までに約4万8889ヘクタールが焼失し、このうち半分以上の2万8680ヘクタールを西カリマンタン州が占める。気候問題に取り組む現地NGOマダニ・ブルクランジュタンは、西カリマンタン州だけで「焼失したとみられる」面積を5万558ヘクタールと、より多く見積もっている。森林監視プラットフォームのヌサンタラ・アトラスが開発した新しい衛星監視システム「FireWatch」は、現地8月11日時点でインドネシア全土の火災発生地点(ホットスポット)を15万4000カ所以上検出しており、これは7月時点の数字より60%多い。過去の深刻な火災シーズンと比べても、現地7月27日時点のホットスポット数(9万6000カ所超)は、2019年の同時期(約8万8000カ所)や2023年の同時期(約5万8000カ所)を上回っていた。火災は野生生物への脅威にもなっており、西カリマンタン州ケタパン県では、絶滅危惧種のボルネオオランウータンの保護・リハビリ施設の近くで現地の7月22日と8月11日に相次いで火の手が上がった。ジャワ島のブロモ・テンゲル・スメル国立公園も、別の火災により閉鎖されている。当局は数万人規模の要員と数十機の航空機を投入して消火にあたっているが、環境団体は、予算削減とエルニーニョ現象の激化により、インドネシアの備えへの懸念が強まっていると指摘する。
背景
インドネシアでは毎年、乾季にあたる7月から10月ごろにかけて、農地開拓や大規模プランテーションの造成のために野焼きが行われることが多く、これが泥炭地の乾燥と重なると大規模な森林火災に発展しやすいとされる。泥炭地は地中に大量の炭素を蓄えているため、いったん火がつくと地表だけでなく地下でもくすぶり続け、消火が難しく煙害も長期化しやすいという特徴がある。今年は6月に「スーパー」エルニーニョ現象が公式に到来したとされ、米国の気候予測センターは10月から12月にかけて「非常に強い」強度に達する確率を81%と見積もっている。エルニーニョは太平洋の海水温上昇に伴って東南アジアの乾季を一段と乾燥させる傾向があり、過去にも2015年や2019年など、エルニーニョが強かった年にインドネシアの森林火災と煙害が深刻化したとされる。マレーシアやシンガポールは地理的にインドネシアの風下にあたることが多く、乾季には煙が国境を越えて流れ込む「越境ヘイズ(transboundary haze)」問題が繰り返し起きてきた。この問題をめぐっては東南アジア諸国連合(ASEAN)が2002年に越境煙害防止協定を結び、火災の監視や情報共有の枠組みを設けているが、発生源となる火災そのものを止める強制力は限定的とされる。
日本にとっての意味
日本はこの越境ヘイズ問題の当事国ではなく、報じられる機会もほとんどない。しかし東南アジアの森林火災は、日本の暮らしとの接点をいくつも持つ。まず、インドネシアは紙・パルプ用の植林地やパーム油農園の拡大が森林火災の一因とされてきた国で、日本はパーム油の主要な輸入国の一つであり、加工食品や洗剤、化粧品など幅広い製品にこの油が使われている。火災対策や泥炭地保全の取り組みは、こうした原料調達の持続可能性とも関わってくる。また、今回焼失が広がる西カリマンタン州は、絶滅が危惧されるボルネオオランウータンの生息地でもあり、日本の動物園や自然保護団体が関わる保全活動、国際的な野生生物取引の議論にも影響しうる。さらに、エルニーニョ現象は東南アジアの乾燥だけでなく、日本の夏の天候や台風の発生傾向にも関係するとされており、今回のような大規模な火災の発生状況は、太平洋を挟んだ気候の連動を知る手がかりにもなる。渡航面では、乾季から秋にかけてマレーシアやインドネシアのボルネオ島方面へ旅行や出張を予定している人にとって、大気質の悪化は健康面で無視できない実害となりうる。