トルコ主導の中東防衛協定、エジプトに参加要請
トルコが、サウジアラビアおよびパキスタンと先週メッカで結んだ防衛協定に、エジプトも加わるよう呼びかけた。3カ国いずれかへの攻撃を全体への攻撃とみなす集団防衛の枠組みで、中東地域の安全保障秩序が域内の大国主導で組み替えられつつある動きの一つといえる。
何が起きたのか
トルコ、サウジアラビア、パキスタンの3カ国は先週、メッカで「共同防衛協定」に署名した。詳細な運用方法はまだ詰められていないが、中心となる条項は、加盟国のいずれかが攻撃を受けた場合、それを全加盟国への攻撃とみなすというものだ。エルドアン大統領は、より多くの国がこの協定に加わることを望むと述べ、紛争が続く地域の安定化を目指す枠組みだと位置づけた。トルコのフィダン外相も、この協定は特定の相手を敵視するものではないと述べ、「互いの安全保障、主権、繁栄への関与を示し、地域が自ら安全保障を担う体制を強めるものだ」と説明した。
トルコはこの協定にエジプトの参加を促している。トルコとエジプトは軍事面で緊密な協力関係にあるが、エジプトのアブデルアッティ外相は参加に慎重な姿勢を示した。同外相は、防衛分野での協力には法的な義務が伴うとした上で、まず協定の法的・憲法上の論点について綿密な検討が必要だとしている。
背景
この協定が結ばれた背景には、5カ月に及ぶとされる米国とイランの軍事的対立がある。この衝突は中東域内の各国を巻き込み、ホルムズ海峡や紅海を通る船舶の航行にも支障をもたらしたという。長年、中東の安全保障は米国の軍事的優位を前提に組み立てられてきたが、この衝突を機にその前提が揺らぎ、地域各国が自前の安全保障の枠組みを模索する動きが強まったとみられる。
サウジアラビアとトルコは、かつては関係がぎくしゃくしていた時期もあったとされるが、この対立以降、急速に接近したという。パキスタンは核保有国とされ、サウジアラビアとは伝統的に安全保障面での結びつきが強いとされる。こうした3カ国が正式な相互防衛協定という形をとったことは、湾岸諸国とトルコ、南アジアの核保有国を結ぶ新たな安全保障の軸ができつつあることを示している可能性がある。
エジプトは中東最大級の軍事力を持つとされ、トルコとも軍事協力関係にあるが、慎重姿勢の背景には、協定参加が既存の同盟関係や国内法制との整合性にどう影響するかを見極めたいという事情があるとみられる。
日本にとっての意味
日本は原油の多くを中東からの輸入に頼っており、ホルムズ海峡や紅海といった主要な航路の安定は、エネルギー安全保障に直結する。今回の協定は、その航路が位置する地域の安全保障が、米国の関与を前提とした従来の枠組みから、トルコやサウジアラビアといった域内大国が主導する枠組みへと移りつつある兆候として読める。
こうした地域内の防衛協力が広がれば、船舶の護衛や航路の安定確保のあり方も変わりうる。日本のエネルギー調達や海運会社にとっては、どの国がどのような枠組みで航路の安全に責任を持つのかという構図の変化が、間接的にではあるが輸送コストや供給の安定性に関わってくる。中東情勢というと紛争そのものの報道に注目が集まりがちだが、こうした制度面での再編も、日本の暮らしに関わるエネルギー供給の土台に静かに影響しうる話として注視する価値がある。