ズントーの建築を14年撮り続けた3D映画、ブラッド・ピットが製作総指揮に
米俳優ブラッド・ピットが、ドイツの映画監督ヴィム・ヴェンダースによるドキュメンタリー映画「From Inside Out – The Architecture of Peter Zumthor」に、製作総指揮として加わった。スイスの建築家ピーター・ズントーの建築を扱う3D映画で、ヴェンダースはズントーと組んで14年撮影を続けてきた。9月のヴェネチア国際映画祭で初上映される。デザイン専門メディアのDezeenが8月20日付で伝えた。
何が起きたのか
映画はプリツカー賞を受けたズントーの建物の中に、観客を没入させることを狙う。ヴェンダースが撮ってきたのは建物の素材や設計だけではない。そこに住む人、訪れる人の話も映画に入れようとしてきた。
「私たちはみな家に住み、家で働いている。それなのに建築については、ほとんど何も知らないままだ」とヴェンダースは述べている。この映画はそれを変えたいが、教え諭すようなやり方ではなく、ただ浸らせること、ほとんど身体で味わうことを通じて変えたいのだという。観客は人里離れた特別な場所を旅することになり、その案内役は「場所の秘密」について世界で最も詳しい人物の一人だ、とも語っている。
登場する建築は7件ある。ロサンゼルス郡立美術館(LACMA)の増築棟のほか、スイスのテルメ・ヴァルス、ノルウェーのステイルネセット記念碑、イングランドのセキュラー・リトリート、ドイツのコロンバ美術館とブルダー・クラウス野外礼拝堂、そして2026年秋から順次公開が始まるスイスのベイエラー財団ヴィス棟である。
背景
ピットとズントーの関係は、この映画より前にできていた。ピットは2019年、LACMAの新館「デイヴィッド・ゲフィン・ギャラリーズ」の計画協議の場で、ズントーを「光と影の名手」と評した。世界配給を扱うHanWay Filmsは「LACMAの建物のズントーによる設計を声を上げて擁護し、決定的な場となったロサンゼルス郡の公聴会でも計画のために発言したことが、その成功に大きく寄与しました」と述べている。ギャラリーは昨年完成した。今回ピットが名を連ねたのは、この作品への個人的な支持と、ズントーとヴェンダース双方への敬意の表れだとしている。
ズントーは寡作で知られる。装飾を削ぎ、光と素材の質感を積み上げる作風は、写真では伝わりにくく、実際にその場に立って初めて分かるとされてきた。ヴェンダースが14年をかけ、しかも3Dという手法を選んだのは、その伝わらなさに正面から取り組むためだと読める。
日本にとっての意味
同じ監督が、同じ問題に日本で先に取り組んでいる。2023年の劇映画「PERFECT DAYS」だ。ヴェンダースは当初、東京の公共トイレを改修する事業「THE TOKYO TOILET」について短編ドキュメンタリーを撮るよう依頼された。それを長編の劇映画に作り替えたのがこの作品で、役所広司が演じる清掃員の日々を追う。日本財団が渋谷区と組んで2020年に始めた事業で、17か所のトイレを安藤忠雄や坂茂らが設計した。映画はアカデミー賞の候補になった。
ただし作り方は逆になっている。「PERFECT DAYS」で建築は主題ではない。清掃員の反復する一日の背景に置かれ、観客は説明されないまま、あの空間を毎日拭く人の手つきを通してそれを知る。今回の映画は建築そのものを正面に据え、3Dで空間を体験させにいく。日本で見つけた「建築を語らずに伝える」やり方を、ヴェンダースは今度は裏返して使っている。
映画に出る7件はいずれも欧州と米国にあり、日本で実物を見ることはできない。だからこそ、その場に行かなければ分からないとされてきた建築を映像でどこまで運べるかという実験の結果は、日本の観客にも試される。