アジアを襲った記録的熱波、韓国42.5度 スーパーエルニーニョが影響か
8月に入り、東アジアから東南アジアにかけて記録的な高温が続いた。韓国では気象観測開始以来の最高気温を記録し、日本や中国でも40度を超える地点が相次いだ。専門家は、この夏の異常な暑さを「スーパーエルニーニョ(super El Niño)」と呼ばれる強いエルニーニョ現象と結び付けている。
何が起きたのか
韓国南部の都市、梁山(ヤンサン)では、現地時間の8月2日に42.5度を記録した。1904年に公式な気象観測が始まって以来、最も高い数値だという。地元では、畑の土の中でジャガイモがゆだったと伝えられるほどの暑さだった。日本でも7月下旬に複数の県で40度を超え、中国の中部・西部でも同様の高温が観測された。香港では現地時間の8月9日に39.8度を記録し、1980年代に自動気象観測装置を導入して以来の最高値となった。ベトナムでは現地の7月11日から8月10日にかけて39〜40度台が続き、多くの地域で記録を更新したとベトナム当局は説明している。フィリピンやカンボジア、ラオス、タイ、マレーシア、インドネシアなど、東南アジアの複数の国でも雨が少ない状態が観測された。
健康被害も深刻だ。韓国では現地の8月18日時点で、熱中症とみられる症状の患者が3,445人、死者が31人に上り、死者の8割以上が60歳以上だったと韓国当局は発表した。日本では7月22日の発表時点で、直近1週間に熱中症とみられる死者が14人、熱中症とみられる症状で搬送された人が1万800人を超え、搬送者の6割以上が65歳以上だったという。若い世代も無関係ではない。フィジー出身の26歳のラグビー選手が、福岡での練習後の8月3日に倒れて熱中症とみられる症状を示し、その4日後に亡くなったと報じられている。動物への被害も伝えられ、東京のある動物園ではライオン3頭が死に、熱中症が原因とみられている。韓国では家畜約120万羽・頭、養殖魚約283万匹が暑さで死んだという。
背景
エルニーニョ現象は、太平洋赤道域の海水温が平年より高くなる自然現象で、数年おきに発生する。マレーシア・サバ大学のジャスティン・センティアン教授によると、通常は貿易風が東太平洋の暖かい海水を西側へ押し流し、その熱がアジアの夏のモンスーンの原動力になる。ところがエルニーニョが起きると貿易風が弱まり、暖かい海水が西へ流れにくくなる。その結果、教授の言葉を借りれば「東南アジアと東アジアを、重く下降する高気圧の空気の下に閉じ込めた」状態になったという。下降する空気は積乱雲の発生を妨げ、太陽光を遮るモンスーンの雲がなくなることで、地表に直接強い日射が届いたとみられる。今回のエルニーニョは6月に正式に発生が確認され、観測史上でも最も強い部類になりうるとの見方が専門家の間で出ている。
世界保健機関(WHO)は、熱中症のほか、暑さが心臓病や糖尿病、喘息などの持病を悪化させたり、感染症のリスクを高めたりする恐れがあると注意を呼びかけている。気温の上昇は蚊が媒介するウイルス性の感染症、デング熱のリスクも高める。気温が上がるとヒトスジシマカなどのAedes属の蚊の生育が早まり、ウイルスが蚊の体内で増える期間も短くなるためだ。マレーシアでは今年、デング熱の感染報告が6月時点で3万3000件を超え、8月には約5万5800件に達した。いずれも前年の同時期を上回っているという。2025年にネイチャー・コミュニケーションズ誌に掲載された研究では、エルニーニョの影響で2020年から2099年までの累積のデング熱患者数が世界全体で39〜81.7%増える可能性があると推計されている。
米ボストン・カレッジの気候科学者、イー・ミン氏は「地球温暖化が進むにつれ、命に関わるような熱波はほぼ確実に頻発するようになる」と述べ、今回のエルニーニョは秋から冬にかけて最盛期を迎えると警告している。
日本にとっての意味
日本でもこの夏、複数の県で40度を超える気温が観測されており、他人事とは言えない出来事だ。一般にはエルニーニョが起きた年、日本は冷夏や暖冬の傾向になりやすいと指摘されてきたが、今年の記録的な暑さはその通念に単純には当てはまらない可能性がある。両者の関係は一律ではないとの指摘もあり、今後の気象情報にも注意が必要だろう。
健康被害の面では、韓国と日本のいずれでも高齢者への影響が際立っている。日本は搬送者の6割超が65歳以上、韓国は死者の8割超が60歳以上という数字が出ており、高齢化が進む日本ではこの傾向がさらに強まる可能性がある。一方で、福岡で倒れた26歳の選手の例が示すように、若く健康な人でも油断はできない。
東南アジアへの渡航者や在住者にとっては、デング熱のリスク上昇も見過ごせない点だ。マレーシアなどでの患者数増加は、旅行や駐在の際の蚊対策の重要性を改めて示している。
インドネシアの干ばつによる森林火災の煙がマレーシアに広がり、シンガポールにも及ぶ恐れがあるという情報も、現地滞在者には参考になるだろう。イー・ミン氏が指摘するように、今回のエルニーニョは秋から冬にかけて最盛期を迎えるとみられており、日本の今後の天候や海外との往来を考えるうえでも、引き続き注視する価値がある動きだ。