気候・災害

損失被害基金、ネパール洪水に緊急対応迫られる

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ネパールで8月26日(現地時間)に発生した鉄砲水では、政府の暫定推計で1,000人を超える死者が出て、被害額は50億ドルにのぼる。これを受け、国連の「損失と被害への対応基金(Fund for Responding to Loss and Damage、FRLD)」の理事のうち、アフリカ・アジア・後発開発途上国を代表する8人が連名で書簡を出し、資金拠出を検討する緊急理事会の開催を求めた。基金はまだ災害対応で資金を拠出した実績がなく、今回が制度の実効性を試す最初の機会になる。

何が起きたのか

ネパールでは、氷河がある斜面が異常な高温の後に崩落したことが引き金とみられる土砂まじりの鉄砲水が発生し、多数の死者と、住宅・エネルギー・交通インフラの破壊をもたらした。政府は現地時間の8月31日、FRLDに直接資金支援を要請した。これを受け、途上国側の理事8人がオンラインで協議し、連名の書簡でFRLD理事会に緊急会合の開催を求めた。書簡は今回の災害を、基金がまさに対応するために設立された気候関連の異常気象そのものだと指摘し、人命の損失、避難、エネルギー・交通・経済インフラの破壊の規模からして、基金が持つ既存の仕組みをどう動員してネパール政府と被災地域を支援するか、理事会が緊急に検討する必要があるとしている。

FRLDは2022年の国連気候会議で設立が合意され、2025年末に初めての資金提案の公募を始めた。ジャマイカの水インフラ整備やバングラデシュの洪水対応など、主に長期的なプロジェクトへの提案180件が集まったが、手続きの詰めに時間がかかり、前回の理事会でも決定を先送りしていた。設立のきっかけとなった2022年のパキスタン大洪水からすでに数年が経つが、基金はこれまで災害対応として一件も資金を拠出したことがない。基金の運営規則では、初期段階でも「迅速な対応」を支えられるとされ、人道支援を補完する資金や、復旧・復興のための資金を出せると定められている。市民社会側で基金への拠出拡大を求める運動を率いるハージート・シン氏は、「気候災害は決められた委員会の日程を待ってくれない」と述べ、基金はまさにこうした場面のためにつくられたはずだと指摘したうえで、理事会の共同議長に対し直ちに緊急会合を開くよう求めている。

背景

損失と被害(loss and damage)とは、温暖化対策をしても防ぎきれない気候変動の被害そのものを指す言葉で、長年、先進国と途上国の間で誰が費用を負担するかが争点になってきた。2022年の国連気候会議(COP27)で、途上国の強い要求を受けてようやく専用の基金設立が合意された経緯がある。ただし、基金の資金は各国の任意拠出に頼っており、先進国が約束した8億2000万ドルのうち、実際に払い込まれた分は一部にとどまる。現在使える見込みの資金は合計3億5000万ドルで、初期段階では1件あたり最大2000万ドルという上限も設けられている。ネパールの気候交渉担当者は、2000万ドルは象徴的な意味合いにとどまるかもしれないとしつつも、今後同様の災害が起きた際に基金がどう動くかを占う「重要な前例になり得る」と述べている。国連には既に、災害発生後すぐに資金を出す仕組みとして中央緊急対応基金(CERF)があり、ネパールには複数国から人道支援の拠出表明も出ている。しかし気候災害が頻発・激甚化する中、人道支援の枠組みだけでは復興までを支えきれないという指摘があり、損失被害基金がその隙間を埋める役割を果たせるかが焦点になっている。

日本にとっての意味

日本もこの損失被害基金に1000万ドルの拠出を表明した国の一つで、気候変動対策の国際的な資金負担の一端を担っている。今回問われているのは金額の多寡以前に、災害発生時に理事会の定例日程を待たずに迅速に資金を動かせる仕組みになっているかどうかという、制度の実効性の部分だ。設立から数年、多数の提案を受け付けながら一件も拠出実績がない状態が続いており、今回ネパールへの対応が実現するかどうかは、日本を含む拠出国が出した資金が実際の被災地でどう機能するのかを見極める試金石になる。日本国内でも豪雨や台風による被害が繰り返されているだけに、国際的な気候資金の仕組みが迅速な災害対応をどこまで支えられるかは、注視する価値がある論点だ。