韓国の601市民団体が集結、ホルムズ海峡への派兵検討に抗議
韓国政府がホルムズ海峡への軍派遣を検討していることを受け、現地時間の9月9日、601の市民団体でつくる共同行動がソウルの米国大使館前から大統領府(青瓦台、大統領の執務室兼公邸)まで抗議デモを行った。李在明大統領は国民的合意を求めるとしているが、軍出動が中東での戦争に韓国を巻き込むとして、市民社会の反発が強まっている。
何が起きたのか
韓国政府はホルムズ海峡情勢をめぐり、戦闘・非戦闘の両選択肢を含む実質的な貢献を検討していると明らかにした。これを受け現地時間の9月9日、侵略戦争と派兵に反対する共同行動と名乗る601の市民団体でつくる連合体が米国大使館前に集まり、大統領府へ向けてデモ行進した。参加者らは、派兵が韓国の憲法や主権を損なうと訴えた。
共同行動は声明で、米国とイスラエルによるイラン攻撃を国際法に違反する違法な侵略戦争と位置づけ、中東への軍派遣は憲法第5条が侵略的な戦争を否認していることに反すると主張した。声明は「私たちは、若者たちが不当な侵略戦争の犠牲になることを許すわけにはいかない」と強調した。
韓国の市民社会は現地時間9月4日の李在明大統領の発言を機に、声明や抗議行動を相次いで打ち出してきた。同日、韓国の労働組合の全国組織は派兵に反対する声明を出し、米国が主導する動きに強制的に加われば帝国主義戦争への関与となり、韓国国民の安全と主権を脅かすと警告した。この組織はまた、米国が半導体関税交渉を軍事協力の取引材料に使おうとしていると批判した。
現地時間の9月5日には、尹錫悦前大統領の弾劾を求める運動を主導した市民連合ソウルろうそく行動のイ・ムジン執行委員長が集会で米国の経済的圧力に反対を表明した。そのうえで政府に対し、トランプ大統領の要求を拒んで主権を守るよう求めた。
緑の党と正義党は、いずれもトランプ氏を戦争屋と呼ぶ強い声明を出した。正義党はX(旧ツイッター)に投稿した声明で、米国内でもトランプ氏の側近のごく一部しか支持していない軍事作戦のために、なぜ韓国の市民や若者が盾にならなければならないのかと問いかけた。
パレスチナの人々と連帯する市民団体は現地時間の9月5日に緊急集会を開いた。同7日には大学キャンパスやソウル市内各所で抗議や平和行動が続いた。
イラン外務省の報道官は韓国語でXに投稿し、韓国軍のホルムズ海峡での展開は「重大な結果」を招くと警告した。韓国政府は正式決定していないとしているが、国防省は現地時間の9月7日、現地調査団をホルムズへ派遣した。
背景
2026年初め、米国とイスラエルはイランへの軍事作戦に踏み切り、これに対しイランがホルムズ海峡を封鎖する事態となった。ホルムズ海峡は中東産原油の輸送路として世界的に知られ、封鎖の影響は各国のエネルギー調達に及んでいるとみられる。トランプ大統領は封鎖の解除に向け、欧州やアジアの同盟国に軍事支援を求めて圧力を強めてきた。
2026年11月に中間選挙を控え、中東への関与拡大が米国内で不人気な政策とされるなか、トランプ氏は同盟国への要求を一段と強めているとみられる。日米韓合同軍事演習の数週間前、トランプ氏はトゥルース・ソーシャル(Truth Social)という交流サイトへの投稿で、韓国が中東紛争への関与に消極的なことを理由に、この演習への米国の関与を縮小すると明らかにした。9月初めには、米政府が半導体輸入に対し的を絞った関税政策を導入すると発表しており、世界的な半導体拠点である韓国を念頭に置いたものだとみられている。
この発表の直後、韓国国内の複数メディアは大統領府関係者の話として、韓国が年内にもホルムズへ派兵する方向だと報じた。李在明大統領は派兵計画についてなお検討中であり最終決定はしていないと強調している。
日本にとっての意味
今回の対立は、日本にも直接関わる形で表面化している。トランプ氏は、韓国の消極姿勢を理由に日米韓合同軍事演習への米国の関与を縮小すると表明しており、日本はその演習の当事国だ。韓国が派兵に応じるかどうかという判断は、日米韓の安全保障協力の枠組み全体に影響しうる問題であり、対岸の議論ではない。
日本にとってもホルムズ海峡は原油輸送の経路にあたり、封鎖が長引けば調達に影響が及ぶ。日本でも過去の安全保障法制の議論で、ホルムズ海峡が自衛隊の活動範囲をめぐる具体例として取り上げられた経緯があり、軍事的な関与のあり方をめぐる論争は韓国固有の話ではない。米国から同盟国への圧力に、関税など経済的な取引材料と安全保障上の要求が結びつけられる構図も、日本が今後直面しうる状況として注目に値する。
韓国では、市民社会が政府の決定前から声を上げ、労働組合や学生団体、政党までが横断的に反対の意思を示している。同盟国としてどこまで軍事的な役割を担うかという論点は、日本自身の過去と将来の議論に重なる部分がある。