気候・災害

ヒマラヤ洪水、温暖化の関与は 科学者が検証する因果関係

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現地時間の8月26日朝、ネパールと中国チベット自治区の境界にあるヒマラヤ山中で大規模な洪水が発生し、1300人以上が死亡、数千人が今も行方不明のままとなっている。当初は氷河の崩壊が原因とされたが、その後の衛星画像分析で、氷河の下にあった岩盤ごと崩れ落ちたことが分かった。専門家は、この発端の訂正を理由に温暖化の関与を否定する見方が出ていることに注意を促している。

何が起きたのか

高山専門家でつくる研究組織HiRiskが現地の8月28日にまとめた報告によると、事の始まりは標高約5200メートルにあるランタン・リルン山の斜面で、氷河の氷とともに岩盤の塊が崩れ落ちたことだった。崩落は標高3000メートルの谷底まで達し、米地質調査所(USGS)は当初、この揺れをマグニチュード4.4の地震として観測したが、後に氷河の崩落と土石流によるものと訂正し、規模はマグニチュード5.2相当としている。

谷底では溶けた氷や水、岩石がレンデ・コーラ川に流れ込み、一時的に土砂でせき止められた湖ができた。この湖が決壊すると、水と岩石の壁が時速30キロほどの速さで下流へ流れ下り、ネパール側では「ボテコシ川」と呼ばれる同じ川筋を伝って、130キロ以上離れた町ムグリンには現地時間の午後1時ごろ(日本時間の同日午後4時15分ごろ)到達した。ネパールのガルチではトリスリ川の水位が30分で9メートル上昇したとの報告もある。

洪水はこれで終わらなかった。現地時間の8月28日には、中国チベット側で川が合流する地点にできていた別のせき止め湖が決壊し、川の水位が再び上昇した。ネパール政府の防災当局トップは現地時間の9月4日、ロイター通信の取材に対し、財産とインフラの損失額は少なくとも25億ドルに上ると説明した。道路や仮設住宅の整備、飲料水の供給、電力復旧にかかる費用は約5300万ドルと見積もられている。

背景

この災害をめぐっては、「崩れたのは氷河ではなく岩盤だったのだから、地球温暖化とは関係ない」という主張が一部の懐疑派から出ている。しかし専門家は、温暖化の関与を否定する根拠にはならないと指摘している。

ある災害がどこまで地球温暖化のせいと言えるのかを、気候モデルを使って見積もる研究は「アトリビューション研究(attribution study、帰属分析とも訳される)」と呼ばれる。今回の洪水については、こうした正式な研究はまだ行われていない。ただし研究者たちは、気温上昇、氷河の後退、永久凍土(凍った状態が保たれている土壌や岩盤)の融解という三つの要因が、今回のような氷と岩の崩落の起きやすさに影響した可能性があると指摘している。永久凍土が溶ければ岩盤を固定していた氷が失われ、斜面が不安定になりやすくなる、という仕組みは一般に知られている考え方だ。

ネパールのバレンドラ・シャー首相は、洪水を気候変動と結び付け「ヒマラヤ地域で私たちが負わなければならないリスクは高まっている」との認識を示した。米紙ニューヨーク・タイムズの取材に応じたフランス・グルノーブル・アルプ大学のクリステン・クック氏は「氷河が乗っていた岩が崩れた」と、当初の想定より大規模な崩落だったことを説明している。オーストリア・グラーツ大学の地球科学者ヤコブ・シュタイナー氏も、崩れたのは氷河そのものではなく山の岩盤だったと述べており、崩落の主因が岩盤にあったこと自体は複数の専門家の間で一致している。

日本にとっての意味

この一件が示すのは、大災害のたびに繰り返される「これは気候変動のせいと言えるのか」という問いへの、誠実な答え方の型だ。日本でも線状降水帯による豪雨や台風のたびに同じ議論が起きるが、今回のヒマラヤの事例のように、個別の災害についての正式なアトリビューション研究が出るまでには時間がかかる。その間に「まだ研究がないから関係ない」という短絡的な主張が広まりやすいことも、今回の経緯は示している。

もう一つの接点は、土砂や岩石が川をせき止めてできる天然ダムが、後になって決壊し二次的な洪水を引き起こすという現象だ。日本でも地震や豪雨のあとにこうした天然ダムの決壊が警戒されることがあり、今回のヒマラヤでは同じ現象が現地時間の8月26日と28日の二度にわたって起きた。ヒマラヤの高山地帯で永久凍土の融解や氷河の後退が進んでいるという指摘は、直接には日本の国土に関わらないが、アジアの水源地帯の変化であり、この地域を水源とする河川に依存する人々の暮らしに長期的な影響を及ぼす可能性がある論点として、知っておく価値がある。