感染症・健康

米国のワクチン推奨、CDC抜きで学会が独自策定 麻疹死者数も対立

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米国で、ワクチン接種の推奨内容や入手方法、感染症の流行状況といった基本情報を一元的に確認できる場所がなくなりつつある。これまでその役割を担ってきた疾病対策センター(CDC)の機能が揺らぎ、代わって主要な医学会が独自に指針を出す事態になっている。麻疹の死者数をめぐっても、連邦政府と州の間で見解が対立している。

何が起きたのか

現地時間9月2日、米国小児科学会(AAP)、米国産科婦人科学会(ACOG)、米国家庭医学会(AAFP)、米国感染症学会(IDSA)の4団体が合同で、2026〜27年の秋冬の呼吸器感染症シーズンに向けたワクチン接種の推奨をまとめて公表した。発表の場は米国医師会(AMA)が新設したウェブサイト「SpreadTheFacts.org」で、詳しい科学的根拠は学会誌JAMAに掲載された。

推奨の柱はインフルエンザ、新型コロナ、RSウイルス(RSV)の3種類。インフルエンザは生後6カ月以上の全員が対象で、10月中の接種が望ましいとされた。65歳以上には、高用量型やアジュバント添加型など効果を高めた製剤が優先的に推奨されている。

新型コロナは19歳以上の成人に最新版ワクチンを、65歳以上には6カ月後の追加接種を勧めている。妊娠・授乳中の接種も時期を問わず推奨された。

RSVワクチンは75歳以上と、50〜74歳のうち重症化リスクが高い人が対象で、妊婦への接種は今回、対象期間が9月1日から翌年3月1日までに延長された。従来は1月末までだったが、RSVの流行時期が後ろにずれ、長期化する傾向を踏まえた変更という。

こうした学会独自の指針が必要になったのは、CDC配下の専門家諮問委員会(ACIP)との連携が事実上止まっているためだ。学会側は、ミネソタ大学が運営するワクチン政策の検証プロジェクト「Vaccine Integrity Project」(CIDRAPの一部)とAMAの協力を得て、独自に科学的根拠を精査した。なお現地時間8月27日、米食品医薬品局(FDA)が新型コロナワクチンの最新版を65歳以上向けなどに承認した。薬局で実際に接種できるかどうかは、FDAの承認範囲と、居住する州や利用する薬局チェーンの方針に左右される状態になっている。

さらに、感染症の統計についても連邦と州の間で足並みが乱れている。CDCは、ペンシルベニア州が報告した麻疹による死亡2件について公にその内容を否定し、全国集計から除外した。

背景

ACIPは長年、CDCのもとで外部専門家がワクチン接種の推奨内容を審議し、事実上の全国統一基準を作ってきた組織だ。ところが2025年6月、委員の顔ぶれが一新され、米国小児科学会(AAP)が起こしたAAP対ケネディ訴訟でその正当性が争われている。委員会としての活動も人事も、司法判断が出るまで停止した状態が続いており、決着には時間がかかっている。

これまでワクチンの推奨、入手可否、感染状況をめぐる3つの問いには「CDCに聞けばわかる」という一つの答えがあった。しかし今は、推奨は各医学会、入手可否は州や薬局、感染状況の集計は連邦と州の間で見解が割れるというように、答えがばらばらになっている。多くの州は、ACIPの決定に頼らずに独自の推奨を採用できるよう、法的な手当てを済ませているという。

日本にとっての意味

米国は公衆衛生分野で世界的に発信力の大きい国であり、CDCの統計やガイドラインは日本の医療機関や研究者もしばしば参考にしてきた。その司令塔機能が今、法廷闘争や委員会人事の混乱によって揺らいでいる。これは米国内の問題にとどまらず、米国発の医療情報をそのまま引用する際にはどの機関の見解かを確かめる必要があるという教訓を残している。

また実務的な影響として、米国に渡航・留学・赴任する日本人にとって、現地でどのワクチンをいつ受けられるかが州や薬局チェーンごとに異なる状況は無視できない。特に乳幼児連れの家族や妊婦は、渡航前に日本の医療機関で接種計画を確認しておく方が安全といえる。加えて、麻疹の死者数のように基礎的な感染症統計すら連邦と州で一致しない状況は、米国から流行状況を引用する際に一次情報の出所を確認する重要性を改めて示している。